【実践編】50代エンジニアが「忖度なし」で組織を動かした日― 3億円を生んだ“お行儀の悪い他力活用”の話 ―

300million-yen-strategy

この案件、正直に言えば
「やらなくても誰も困らない」仕事でした。

ただし、やれば3億円の価値がある。
そして、やるには時間が足りなかった。

目次

なぜこの話を書くのか

最初に、会社組織には各分野の専門家がいるため、どのような課題でも”いつかは”それなりの妥当な結果や結論に帰着するものだと私は考えています。

一方で、実際の現場においては”時間の制約”があるため”いつか”ではベストな機会を逃してしまいます。通常ルール通りの手順で進めて間に合う場合には淡々と進めれば良いのですが、実際には必要十分な時間がないケースの方が多いのではないでしょうか。

この場合、「時間が足りないから出来ない」と潔く諦める。もしくは、その言葉自体も簡単には言えない社内の空気感から、社内ルールに沿いながら手順通りに進めた挙句、結果的に間に合わずに十分な成果を得られないばかりか損失を被る、という結論に帰着するかもしれません。

したがって、実際に現場で評価されるのは、「正しさ」よりも「前に進めたか」だと私は思っています。と言ってもその手段は、資料作成の作業スピードを上げる効率化テクニック、もしくは、寝る間をおしんで働くという根性論でもありません。

また会社組織では上司から「効率化せよ」という非常に真っ当(当たり前)で曖昧な言葉を何度も耳にすると思いますが、手段に落とし込めていないため何のアドバイスにもなりません。

3億円の余地が眠っていたユニット

私が勤務する某大手企業の製品の中に、10年近く採用し続けている「高額ユニット」がありました。主要部品に特殊な工法(☆☆工法)を採用しており、コストが非常に高止まりしていたのです。

「現在の製造技術なら、もっと安価な◯◯工法で造れるのでは?」

ふとした疑問から、これまで何度も仕事をしてきたサプライヤ(HK化成:仮名)の担当者に打診したところ、「一部の設計変更を伴いますが大幅なコスト低減が可能です」という回答を得ました。

その額、年間5,000万円。製品ライフは6年ほど残っているため、今この手にあるユニットに3億円の利益が眠っていたことが分かりました。

立ちはだかった「正しい拒否」

このアイデアを上司に提案し、社内ルールのプロセスに沿って淡々と進める。これで成り立てば何の苦労もないのですが、実際には2つの縛りがありました。

今回の設計変更規模の場合は、製品改良など何らかのプロジェクト日程に乗せなければならないという縛り。もう一つは、サプライヤ選定のソーシングが必須という縛りです。

この時、ちょうど良いタイミングでAプロジェクトが始まろうとしていました。「今からソーシングを始めればギリギリ間に合うかな」というところです。

しかし、私の直属上司に提案し、社内ルール(お作法)通りの稟議を回している時間はありません。そこで私は、プロジェクト統括部署の山田課長、購買部の田中課長のところに直接足を運び相談。コスト低減は会社の利益に直結するため、この案件を進めることで一旦合意しました。

しかし、 なぜか一向に進まない.. 時間だけが過ぎていく..

進捗確認がてら、山田課長と田中課長のところに足を運んではいましたが、大きな二つの壁(正しい拒否)が明確になってきました。

1つ目の障壁;
Aプロジェクトは既にコスト目標達成の見通しが立っており、更なる設計変更のリスクは犯したくない。という山田課長の本音。

2つ目の障壁;
ソーシングを開始する際には、プロジェクト統括部署からの計画書の提出が必須。購買部の田中課長は特に真面目な性格でもあり、計画書に必要な要件を事細かに山田課長に要求。

プロジェクト統括部署の山田課長の倫理は、マネジメント判断として理解できる部分もあり、間違ってはいません。購買部の要求はごもっともであり、田中課長の倫理はもっと間違っていません。

私自身はエンジニアとして、プロジェクト日程内で今回の設計変更をやり切れる自信と、これまでのソーシング経験から、依頼書の要件にはMUSTとWANTの項目があることも把握していました。よって「やりようはあるでしょ」という本音はあるものの、それぞれの意見は間違っていない「正しい拒否」でした。

大きな組織ほどリスク回避のためのルール/プロセスが頑固なまでに構築されていることを痛感します。

結果、誰も前に進めない。
時間だけが過ぎていく。

会議ではなく、個別に火をつける

既に通常のプロセスでは間に合わなくなっていることは明白。そこで私は社内ルールのグレーゾーンに足を踏み入れることにしました。

正式なソーシングが始まる前に、ソーシング有力候補となる、HK化成の競合サプライヤ(あやち工業:仮名)の担当者にも非公式に今回の設計変更提案を打診し、両サプライヤから「できる」という技術的な見解と概算見積もりを得ました。※既に購買のお仕事にまで踏み込んでいます(汗)

サプライヤも通常のプロセスでないことは承知していますが、これまでの製品開発の中で「問題が起きたら私から社内に説明する。一旦これで進めちゃってください」とサプライヤが進めやすい環境整備、リスクを何度も負ってきた信頼残高があったことで、無茶な事前検討にも付き合ってもらえました。

この時、サプライヤ側の担当者に過度な負担を与えてはいけません。非公式ですから、事前検討結果は変わる可能性もこちらが受け止めることも同時に伝えます。

但し、そこについては私もサプライヤ担当をある程度は信じているし、「何とかなるだろ」という感じです。この段階であまり細かなことを考えても仕方がないし、これが私の多少の冷汗も含めた(根っこは慎重で小心者の)汗のかき方でもあります。

一番やりたくなかった一手

一方、社内の「統括 vs 購買」のコミュニケーション不全は継続中.. プロジェクト統括の山田課長は「もう時間的に無理かなぁ」と諦めモード。

私はここで、「お行儀の良いエスカレーション」を捨てました。直属の上司(超ルールマン)を飛び越し、かつて一緒に仕事をしたこともある”プロジェクト統括部の佐藤部長”へ直接メールを送信。(かなり悩みながらも..マウスをポチり)

ちなみに、佐藤部長は非常に厳しいことで社内で有名ですが、私自身は「公平で建前よりも本質を見る人物。ロジックが明確であれば役職関係なく話を聞いてくれる人」という見方をしていました。(正直、うまくいかなければ自分の評価が下がる可能性もありましたが、それでも賭ける価値はあると思いました。)

私は事実をありのまま佐藤部長に伝え、「このままでは時間切れで3億円の利益をみすみす逃すことになる。私が会議を設定して仕切ることに佐藤さんのお墨付きを頂きたい」。

この時の私の視点は、「誰が正しいか」などはどうでもよく、「会社の利益(3億円)を得るためのリスクが許容範囲であるかどうか」でした。そのため私は、事前の技術検討資料を更にブラッシュアップした上でこのお行儀の悪いエスカレーションに臨み、無事に佐藤部長のお墨付きを得ることに成功しました。

結局、何が組織を動かしたのか

グレーでも決める
 ↓
責任を引き受ける
 ↓
組織が動き、前に進む

その後は、「佐藤部長も了解済みの会議です」と添えることで、動かない課長陣を同じテーブルに引き出し、田中課長の余分な購買手続きも省略。通常20週間かかるソーシングは10週間で完了し、Aプロジェクトのマスター日程に滑り込みで乗せることが出来ました。

また、社内会議開始の段階になると流石に直属上司の耳にもそれとなく入れていくわけですが、上層部が承諾していることを添えれば多少の小言は言われたとしても、止められるようなことは基本ありませんでした。

もちろん飛び越しエスカレーションしたことを私からあえて伝えることはありませんが、もし耳に入った時には、「事実を話せば済むことだ」とシンプルに考えていましたし、そこの腹括りは無意識にしていたと思います。

最終的にこの製品は改良に成功したのですが、私は今回紹介したような実例を何度か経験してきたことで、組織を動かすのは、必ずしも「権限」や「立場」だけではないように感じています。では、何が現場の組織を動かすのか?何が必要か?

私は「決めること」に尽きると考えています。今回の実例であれば、サプライヤへの非公式打診と先行検討、飛び越しのエスカレーション等がその類です。誰に指示されたわけでもなく「決めた」のは自分自身です。少しかっこいい言い方をすれば、「責任を引き受けること」と言えるかもしれませんね。

このやり方は、誰にでも勧めない

ここまで読んでいただいた方の中には、「自分も明日から上司を飛ばして直談判しよう」と思う方もいるかもしれませんが、このやり方は万人に勧められるものではありません。

なぜなら、この「お行儀の悪い突破術(ファシリテーション)」には、それ相応の副作用やデメリットもあるからです。

まず、組織のルールや慣習を逸脱するということは、組織の序列や調整を重んじる層からは「扱いにくい人間」というレッテルを貼られる可能性が少なからずあります。実際、私はこの手の立ち回りを繰り返した結果かどうかは分かりませんが、リアルの現場で出世コースから見事に外れています(笑)。

ただ、社内ルールを逸脱するとは言っても、それらが私の倫理や価値観と照らし合わせて、どうにも重要とは思えないガイドライン的なものに限ります。競合サプライヤへの情報漏洩などコンプライアンス違反に該当するようなことは当然しませんし、重要な部分はキチンとしておかないとサプライヤからの信頼も得られないと思います。

次に、実例の山田課長や田中課長のように、リスクを最小限に抑えることや、どのようなルールやガイドラインでも遵守することに重きを置いて組織を守っている人たちからすれば、私の行動は非常に煙たいはずであり、なんなら「荒らし」に近いものかもしれません。一時的に関係性が冷え込むリスクは常にあります。

それでも、私がこの道を選んだ理由は、一介のエンジニアとして、「目の前にある最適解(3億円の利益)」を組織の慣習やルールでゴミ箱に捨てるのが我慢ならなかった」からです。会社組織の中にいれば納得できないような事は山ほどありますが、「これだけは譲れない」という粘り強さだけは役員レベルです。

したがって、もしあなたが「社内でうまく立ち回り、波風立てずに上を目指したい」のであれば、私のやり方は反面教師にした方が良い気がします。しかし、もし「上層部からの評価以上に、プロのエンジニアとして仕事を完遂させたい、そこだけは納得したい」と思うならば、私のようなやり方も多少は参考になるかもしれません。

まとめ|40代、50代だからこそできる「忖度しないファシリテーション」

振り返ってみると、この「お行儀の悪い他力活用」は、若手の頃の私には思うようにできなかった印象があります。

もともと若手の頃から、耳障りは良いが意味のない社内ルールや慣習(あえて言い切っちゃいます)には疑問を抱いていましたが、実力(専門スキルやコミュニケーションの力など)が伴わないため今よりはお行儀が良かったと思います。(といっても、今よりはです。扱いにくい若手社員だったとは思います;笑)また、その実力もないくせに社内外の人たちへのリスペクトも欠けていたと思います。要は人間としても非常に未熟でした。

ただ、根っこのお行儀の悪さも手伝ってか、たくさんの失敗(と小さな成功)を積み重ねてきたおかげで、40代、50代にもなると、「何が本質で、どのルールが形骸化しているのか、どこまでならリスクを負えるか」などを見極める目はついてきたと思います。

それらを武器に、私の場合はサラリーマンでありながらも出世には執着しないため「忖度なしで本質に全振りできる」という強みがあり、メンタルは健康、年収もボチボチという私なりの最適解に落ち着いています。

最後に、「出世には執着しない」と一見カッコ良さげなことを言っていますが、出世したくないわけではありません。なぜなら年収がどうのこうのよりも、仕事はやり易くなると思うからです。

かといって、両方を得る才能は私にはありませんので、そこは割り切っています。

しかし、言い方を変えれば、私の仕事スタイルには才能は不要ですので、再現性は高いかもしれません。アリかナシかを問うつもりはありませんが、今回の記事が、40代、50代の会社員だからこそできる、一つのサバイバル術としてのヒントになれば幸いです。

※もし似たような現場で悩んでいる方は、この記事をシェアしてみてください。

このカテゴリー、次回はこのやり方が失敗しかけた話なども書こうと思います。

「筆者:ハブ(Hub)」

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この記事を書いた人

50代エンジニア、ハブ(Hub)です。 某大手企業で「忖度なし・他力活用」を武器に、高査定を維持しながら自分軸で働くサバイバル術を実践中。年の差再婚、自閉症児の育児、2度の住宅購入といった波乱の経験を「人生のデバッグ」と捉え、50代からの再起動ログを発信。読者の皆さんと共に、人生の最適化を目指します。

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